閉じ込めた感情のスタンプ

ラケット感情とは、自然に湧き上がる感情ではなく、子どものころに家庭において、「このように反応しなさい」と教え込まれた感情のことで、特定のストレス状況で本物の感情を覆い隠します。
ラケット感情を感じたとき、それをそのまま表に出す人と、そうでない人がいます。ラケット感情を表に出さない人は、自分の内部にそれを溜め込みます。あたかも、お店が発行するスタンプ・カードのスタンプのように。交流分析でも、このような現象を「スタンプを貯める」と呼びます。
貯めたスタンプは景品と交換できます。スタンプには一般的に、引き換える基準があります。スタンプが5個貯まったたら景品A、10個貯まったら景品B、30個貯まったら景品Cという具合です。
どのタイミングで景品と引き換えるかは人それぞれです。最小限の個数ですぐに引き換える人もいれば、たくさん貯めてから大きな景品と引き換えるのを好む人もいます。
ラケット感情のスタンプも同様です。たとえば、怒りのスタンプを集めている人がいます。職場で、顧客と理不尽と思えるような問題が起き、怒りを感じたけれどもそれを表面に出さず、スタンプ・カードに1個捺印します。仕事が終わって、同僚を誘って飲みに行き、やけ酒をあおって怒鳴り散らします。彼はスタンプをすぐに”景品”と交換しました。
ある女子高校生は、学校で先生から成績の悪さを指摘され、ボーイフレンドとはちょっとした行き違いでケンカし、部活に行っては後輩たちが練習をサボっていたけれど強く注意はできませんでした。同じようなことが何か月も続いたあと、彼女はついにブちぎれて学校に行きたくなくなりました。彼女はスタンプをまとめて”景品”に引き換えたのです。
日常的によく使われる言葉に「うっぷんを溜め込む」「ストレスを溜める」「イライラを募らせる」などがありますが、これらの中にはラケット感情のスタンプに相当するものが少なからずあるはずです。
ではどうしてスタンプを貯めたがるのかというと、”景品”に引き換えることで、人生脚本の最後に受け取る”報酬”に近づくことができるからです。悲劇的な脚本を持つ人は、攻撃的であれ、受動的であれ、膨大な量のスタンプを脚本の最後に、最大の不幸と交換するかもしれません。平凡な脚本を持つ人は、2~3か月に1回くらい家族と大ゲンカしたり、会社や部活を辞めるかもしれません。
そうしたくないなら、貯めていたスタンプを捨てる決意をすることです。その前に、スタンプの”景品”をもらうことによって近づく、脚本の”報酬”も放棄することが可能かを考える必要があります。それができたなら、お手持ちのスタンプをゴミステーションにでも、トイレにでも捨ててしまえばいいのです。