心を構造化する
人は感じ、考えて行動します。コミュニケーションにおいての言動も何かを感じたり、考えたりした結果です。感じたり、考えたりするのは脳の活動ですが、一般的には心の動きとしてとらえることができるでしょう。
心は目に見えないものです。他人の心はもちろん、自分の心も具象化することはできません。だからこそ、心理学においては、人の心の在り方が興味の中心に来るのです。
「あなたの心はどんな形?」と聞かれると、ハート型と答える人が多いでしょう。ハート、つまり心臓ですね。心と心臓は同じではありません。心臓は身体の中心、胸の奥にあって、とても大事な臓器です。生命だけではなく、感情もコントロールすると思われていたようです。そこからハート型は心を表すようになったみたいです。
心理学では心がどのような構造になっているを探求してきました。心の構造を明確にすることで、さまざまな感情、思考、行動の説明を試みたのです。つまり、心の構造が分かれば、どのような感じ方、考え方をしているかの発見につながるというわけです。
フロイトは自我、超自我、イドの3つに分けました。それらは精神内界にあるものであって、外から第三者が観察できるものではありません。
これに対して交流分析では、親、成人、子どもの3つの自我(パーソナリティ、性質、傾向)が心を構成するとしています。
「親」の自我状態とは、自分を育ててくれた親や親代わりの人、先生などの強い影響を与えた人たちの感情や考え方、行動様式をそのまま取り入れた部分です。規則や道徳、伝統、宗教、価値観などを引き継いでいます。
「成人」は今ここで大人として(あるいは大人のようにして)持っている、感情や思考、行動の部分です。理性的で、論理的な判断をし、現実適応能力を備えています。
「子ども」の自我状態は、子どもの頃に経験した感情、思考、行動をそのままキープしている部分です。好奇心や創造力、直観力を発揮します。
例を見ていきましょう。
ある朝、優奈さんは少し寝坊をしてしまいました。学校に遅刻しそうです。取るものも取らず、急いで家を出ました。学校へ向かう途上で、不安から気持ちが落ち込んできました。小学生のとき、遠足の集合に遅れ、みんなを待たせた上に、教師からものすごく怒られて記憶がよみがえってきました。怖くてパニックになりそうです。
このとき、優奈さんは「子ども」の自我状態にあります。
必死に急いだ結果、何とか遅刻は免れました。教室に入ると、友だちの沙耶ちゃんがよってきて、「今日返すはずだったCD、忘れちゃった。明日持ってくるから」と言います。もう1か月も貸していたお気に入りのCDで、今日返してもらうのと楽しみにしていたのでした。「もう、沙耶ったら、いつもそうだよね。約束は守ってよ。もう何も貸さないからね」と沙耶ちゃんを責めます。
このとき、優奈さんは「親」の自我状態にいます。
授業の準備をしようとカバンの中を見ると、授業に必要な資料本が入っていません。「わあ、どうしよう、先生に怒られる」とパニックになりかけましたが、「同じ授業が隣のクラスでもあったはず。隣のクラスの美紀に借りて来よう」とすぐに教室を出て、隣の教室に行き、無事に資料本を借りることができました。このとき優奈さんは「成人」の自我状態にあったわけです。
このように状況によって、心の状態は刻一刻と変化していきます。それを的確にとらえることで、自分の行動を適切にできたり、相手の言動に理解を示すことができます。