親子のコミュニケーションも、お互いの心の状態から
前回、心(自我)の状態は3つあるというお話をしました。他人とコミュニケーションを取ろうとするとき、これらの3つの状態のいずれかからスタートし、同じ状態を維持したままコミュニケーションを終えるか、場合によっては他の状態で終わることもあります。相手も3つの心の状態を持っていますので、心の状態の組み合わせは9つになります。これだけ見ても、コミュニケーションは複雑だと言えるのではないでしょうか。
コミュニケーションがうまくいかないというとき、2人の心の状態がどこにあるかを知ることができれば、改善することが可能になります。
たとえば、以下の会話はいかがですか?
子「遊びに行ってくる!」
母「クルマに気をつけてね」
子「わかった。行ってきまーす」
子「遊びに行ってくる!」
母「どこに行くの?何時に帰ってくるの?」
子「ケイくんの家。4時に帰るよ」
子「遊びに行ってくる!」
母「子どもはいいわね」
子「お母さんも遊びに行けば?」
3つとも、子の最初の話しかけは「子ども」の心の状態から、母の「親」の状態に話しかけてます。
1つ目の会話は、母は「親」の状態で子の言葉を受け取り、子の「子ども」の状態に応答してます。子にとっては期待通りの会話になりました。この手の会話はストレスなく、スムーズに進んでいきます。
2つ目の会話は、母は「成人」の状態で子の言葉を受け取りました。そして、子の「成人」の状態に向かって応答してます。子どもは期待していた応答と違うので少し戸惑いますが、同じように「成人」の状態に切り替えて母に返してます。母としては、ある程度の満足感があります。子はちょっとしたモヤモヤが残ってしまいました。
3つ目は、母は「子ども」の状態で、子の「子ども」の状態へ返してます。子にとってみれば、完全に予期していなかった反応です。子は「子ども」の状態から、母の「子ども」の状態に返事をしました。2人ともスッキリしない感じを残したまま終わりました。
以上のように、子どもだからいつも「子ども」の状態にいるとか、母親だからいつも「親」の状態にいるというわけではないのです。実際の親子関係と一致するものではありません。
またあるときには、以下のような会話もあるかと思います。
母「いま何時なの?」
子「まだ3時だよ」
母の話しかけは一見、「成人」の状態で時間を聞いているようですが、その裏には「もう勉強する時間でしょ!何をグズグズしてるの!」という「親(批判的)」からのメッセージが隠れてます。子も一見、同じように「成人」の状態で受け取っているように見えますが、裏には「まだ勉強する時間じゃねーよ、うるせぇな」という「子ども」の状態からのメッセージが隠されています。このパターンは大人同士でも、社交辞令とか本音と建前のような会話に見られます。
実のあるコミュニケーションを築くには、まず自分のどの心の状態から、相手のどの心の状態に話しかけようとしているのかを知っておく必要があります。そのうえで、相手の反応が期待通りのものか、あるいは期待とは異なる心の状態から返されたものかを判断し、ネガティブなやり取りならないように工夫し、修正しなければなりません。
たとえば、上の3つ目の会話で、最後の子の「お母さんも遊びに行けば?」という代わりに、「帰ったらお風呂掃除してあげるよ」
と言ってみてはどうでしょう。これは子の「親(保護的)」の状態から、母の「子ども」の状態に返されたメッセージです。順当なやり取りとなり、気持ちも穏やかになるかと思います。