アドバイスの効果
先生 ここ、約分するんでしょ?
生徒 忘れてた。
先生 最大公約数で分母と分子を割ればいいんだから。ほら、6で約分できるじゃない?
生徒 うん。
先生 もう忘れないでね!
生徒 うん、今度から6で約分する。
誰かが悩んでいたり、困っているとき、何とか助けになりたいと思って、解決策をアドバイスすることってよくありますよね?そしてその結果、うまく解決したりすると、
「ほら、言った通りでしょ?私の言う通りにしてたら間違いないから。」
ちょっと待ってください。本当でしょうか。
自分ではあまり良い解決策を思いつかないときに、信頼している人にアドバイスをもらうと、とりあえずそれを試してみたくなります。このときの心の動きはどうでしょうか。
「他に手がないし、うまく行くかよく分からないけどやってみよう。あの人が言うから。」
そうなのです。「あの人が言うから」やってみただけで、自分に自覚や責任を持ってません。うまく行けばいいですが、もし失敗したらそれは「あの人のせい」です。自分の行動と結果に責任を持ちません。たとえうまく行ったとしても、そこには自覚がないので、またいつか同じような過ちをしたり、同じように悩んだりするかもしれません。
自覚と責任を持った行動は、そのプロセスと結果、達成感は自分の中に確実に残り、将来に起こる別な局面でもそれが役に立ち、更なる成長を促すのです。
違った角度から見てみます。
アドバイスする人とアドバイスを受ける人はその瞬間まで、別々の場所と時間を経験してきました。それぞれの経験によって、それぞれ違った考え方を持っています。教師と生徒、上司と部下、親と子、先輩と後輩、どれとして同じ経験をしているペアはありません。
ある、似たようなトラブルに際しても、厳密には発生の条件や対象、規模や影響度も違うのが普通です。まったく異なる人生経験をした人が、過去に自分が遭遇したものと微妙に違うトラブルに対して、適切な解決策を果たして本当に提示できるのでしょうか。
アドバイスする人は相手の経験や考え方が完全には分からないので、自分が持っている尺度で相手やその問題をとらえようとします。つまり自分の視点で、相手の今後の行動を定義しようとしているのです。
うまく行くでしょうか。もちろんうまく行くこともあるでしょう。偶然うまく行くことがあっても、失敗するほうが多いのではないですか。偶然は続きません。
失敗して当たり前です。相手はあなたとは別の経験と考え方を持った、まったく別な人間なのですから。あなたの成功体験はあなただけのものです。
では、どうしたらよいでしょうか。
相手の「気づき」を大切にしましょう。
自分で「あ、そうか!」と気づいたことはずっと忘れません。自分が起こすべき行動に気づいて、それを実際に行動するとき、そこには自覚と責任感が備わっているはずです。多少の困難があっても最後までやり抜こうとします。そして何より、そこで気づいたことは自分の経験と自分の考え方に基づいて出したアイディアです。オーナーシップを持てます。
相手に「気づき」を得てもらうために、私たちがすること。それは「問いかけ」です。問題の本質に気づいてもらうために、効果的な問いかけ・質問をしましょう。問題の回りに存在する「事実」を知って、それらを整理してもらうための質問です。
・どのようにしてそうなったのか。
・どうなったら良かったのか。
・そうするためには何が必要か。
・そのために何をしたらよいか。
・いつからそれを始めるか。
詰問や尋問ではなく、「質問」です。相手が考える十分な時間を与えることも大事です。
そうすると、誰でも必ず、何らかの気づきを得ることができます。
先生 何を間違えたの?
生徒 約分忘れた。
先生 そうか。約分できるときは約分しないとダメだったね。
生徒 うん。でも分からなかった。
先生 気づかなかったんだね。ところで約分ってなんだっけ?
生徒 分母と分子を簡単にする。
先生 簡単にって?
生徒 同じ数でわり算する。
先生 そうだね。分子と分母を同じ数で割るんだね。じゃあ、その数はどうやって見つけるの?
生徒 2で割れるかどうか、次に3で割れるかどうか…
先生 2で割れるってことは偶数だよね。
生徒 そうか!分子と分母が偶数なら2で約分できるんだ。
先生 いいところに気がついたね。偶数なら無条件に2で約分する?
生徒 そう。
先生 それで?
生徒 3で割れないかやってみる。
先生 順番に割ってみるんだね。
生徒 うん。